Vol.552 "決算書"について考える


「決算書のどこを見ますか?」

 

大昔から言われ続けている質問である。

会計人やコンサルタントは、社長たちの返答に想像がつくと思う。

 

「原価を下げる!」

 

これも大昔から言われてきたことだが、

会計人が言う“原価”と

社長や現場がイメージする“原価”は大きく異なる。

お互い理解していない者同士の会話は成り立たない。

 

ものごとを学ぶ場合、

全体を掴んでから細部を理解する方法が取られる。

異論はないが、決算書に関してはどうだろうか?

 

社長たちが決算書を学ぶ場合、大きく2つにわかれる。

 

A.全体→部分

B.部分→全体

 

Aは、決算書や会計の「全体像を解説したうえで細かな部分を説明するやり方」。

Bは、「興味のある部分から学び始め、全体像を学ぶ方法」。

 

本屋に置いてある“決算書本”を見てみると

 

「決算書とは何か?」「貸借対照表とは・・・」

 

といったように全体像の説明から入る本が多いことに気づいた。

決算書の役目や意味を解説してから詳細部分の説明を始める形態である。

 

初心者向けに書かれた「誰でもわかる決算書」の類の本は、

たいてい目次が似通っている。

 

1.決算書とは何か、決算書の役割

2.貸借対照表

3.損益計算書

4.キャッシュフロー計算書

5.大企業の分析事例

6.財務分析(比率による分析方法)

 

 文章などで自分の意見を述べる場合には、

「結論を先に言う手法」は以前からある。

相手に伝えるためには有効な手段に違いない。

 

           ・

 

「木を見て森を見ず」

 

小さいことに心を奪われて、全体を見通さないことのたとえだが、

会計や決算書の知識がない(あるいは乏しい)社長たちに、

いきなり決算書や会計の全体像を説明すると、戸惑う社長たちが出てくる。

 

それはなぜか?

 

算数を習いはじめた小学1年生に、

「算数とは何か!」を説明するようなもの。

まず先に、算数に興味持つような事前の仕組みが必要だ。

足し算や引算を教える前に「数の数え方」が組み込まれているのはそのためである。

 

ところが決算書を学ぶのは「大人」である。

ここで勘違いが始まる。

 

「大人だから“コトバや図”で説明すれば相手は理解してくれる」

 

という思い込みである。

 

小学生は「強制的に教え込まれる」が、

大人は「自ら学びたい」という人だけが決算書の本を買う。

 ところが、社長となると話は違ってくる。

自分の意思に反して「嫌でも必要性を感じる」。

 

           ・

 

市販されている決算書本は、書く側(説明する側)が職業会計人である場合が多い。

彼らは専門知識を学ぶために学校に通った経験をもつ。

自力(独学)で学ぶ人は少ない。

 

学校側(教える側)が用意したカリキュラム(プログラム)に従い、

この方法で学んだ経験が身に染みついている。

目次に従って学ぶことに慣れている。

 

このようにして習ってきた勉強のしかたを、暗に社長たちに押し付けてくる。

なかにはわかりやすい工夫やアイデアを盛り込んだ本もあるが、

基本は“これまで自分が学んできた(学ばされた)方法”である。

 

読む側(習う側)も、著者は“会計のプロだから”という思い込みがあるかもしれない。

しかし結果、頭には何も残らない。

 

それは、

 

決算書は、

 

「頭や知識だけで理解できる“シロモノ”ではない」

 

からである。

 

「決算書とは何か?」

そして社長たちにとって最も重要なテーマ、

「決算書をどのように経営に活用すればいいのか!」

を理解し考えるには、

自身の会社の決算書を使って、

いろいろと思いをめぐらす(たとえば数字の背景や社内の事情なども含めて)必要がある。

 

その方法が「B.部分→全体」である。

 

(つづく)

 

 

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【発行元】株式会社アイティーエス 
【発行責任者】宇野 寛
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