先月、読者からメールが届いた。
『私は運送会社の社員です。
2024年問題を目前にして本当に儲かっているのかわからずに
取引をしている同業者が多いと実感しております。
トラック協会などが「原価計算セミナー」を開催していますが、
イマイチ納得できません。
機会がございましたら、
このメルマガやセミナーで取り上げていただけないでしょうか?』
・
もう20年以上前になるが、
「トラック協会」でMQ会計のセミナーをやったことがある。
事前に「運送業の原価」を下調べして臨んだ。
いまの原価計算は、
1962年(昭和37年)当時の大蔵省会計審議会が
中間報告として公表したものが基準として使われている。
いわゆる“原価の三要素(FC全部原価)”である。
(原価の三要素) 製造の原価=材料費+労務費+製造経費
大学など教育機関の教材として、
公認会計士試験や簿記一級試験の参考文献として、
企業が行っている原価計算を含めすでに世の中に浸透している。
“世の中の常識”になってしまっている原価計算のやり方を、
原価計算を専門的に学び納得してしまった人たちに、
「意思決定(経営判断)には使えない」といったところで、考えは簡単には変わらない。
(そもそもFC全部原価では損益分岐点売上高の計算はできない)
(MQ会計表も作れない)
多くの人は、
50年以上も前に誰か(有識者や学者など)が決めた計算方法を学び
現場で使うことに一生懸命で、「原価とは何か」「なぜこんな計算が必要なのか」
といった原価そのものに対しての疑問を持たない。
科学や科学者の考え方とは思考のスタートが異なるのだ。
『科学者でない人は、自分が信じていることと違うことを言われたときに、
カッとくることが多いでしょう。
ところが、科学者というのは自分が信じていることが「ない」のです。
科学における結論はデータによって変わってきますから、
対象に対しての個人的な信念とかそういうものはありません。』
前回のメルマガで紹介した「科学者・武田邦彦さん」の本からの抜粋である。
・
この原価計算のやり方に“異”を唱えた人が現れる。
ハリス(J.N.Harris)である。
1936年に書かれた彼の論文「我々は先月いくらもうけたか」には
次のような記述がある。(要約しています)
・FC全部原価は、経理部長の立場から見れば
会計規則に則って行った会計処理であり、その限りにおいては間違っていない
・ところが、会計の素養があまりない社長にとっては、
そんなことはどうでもいい。会計特有の仕組みなど問題ではない
・売上高と利益が対応して推移しないような損益計算書はおかしい!
これが社長の感覚である
・配賦の仕方によって原価が変わるというのは、
この先を考えるうえで邪魔になる
そこでハリスは考える。
「経営に使えるようにするには、
経理部長が配賦している製造間接費を原価から除いてしまおう」。
そして考え出された損益計算の方式が「direct cost plan」、
「直接原価計算」という名称はここに由来している。
世界で最初に直接原価計算に言及した論文となった。
興味深いのは、
「我々は先月いくらもうけたか」が
重要な研究テーマになっている点である。
当時のアメリカでは、すでにこのような問題を研究していたわけだ。
※)参考文献『直接原価計算論 発達史(高橋 賢=著 中央経済社)』
・
公益社団法人全日本トラック協会が
「原価計算活用セミナー」として公表しているテキストがある。
国土交通省もこの計算を推奨している。
このテキストには「活用目的と計算方法」が載っている。(一部抜粋)
(原価計算の活用目的と計算方法)
1.適正な運賃を収受
2.コスト管理・コスト削減・業務改善
3.会社の赤字要因を特定する
さらに、「車両単位の原価計算」「1km当たり変動費の算出」「運転者人件費の考え方」と事細かに続く。
おそらく今回メールをくれた読者はこのことを言っているのだろう。
ここからは推測だが、彼は運送業の原価計算について相当勉強したはずだ。
その結果、「経営判断に使えるのか」という疑問を持ったのだと思う。
・
昔からやっていたから・・・
そういう決まりだから・・・
出てきた数字、計算根拠に疑問を感じないとしたら・・・
科学的な経営・意思決定を放棄していることにはならないだろうか。
“ほんとうの原価”は、誰にもわからない。
ということは、
“利益”も計算できない。
「それでは困る」
「原価を求めるために何かイイ方法はないか」
だったらルールを決めよう
これを“原価”と呼ぶことにしよう
これを税金の計算に使うことにしよう
決算書に記載する製品や仕掛品はこのように“評価”することにしよう
そして1962年(昭和37年)、
“中間報告”として公表されたのが「原価の三要素」。
・
会計や原価計算に違和感を持つ社長は、独自のモノを作っている。
MQ会計やマトリックス会計もその一つだ。
MGに置き換えて考えるとシンプルでわかりやすい。
運送業では、
トラックは「小型機械」でトラックの運転手は「ワーカー」。
MGやMQを実践している社長は置き換えて考え、意思決定に使っている。
「原価計算がイイか悪いか、正しいかそうでないか」ではなく、
社長自身が「実感(納得)できるような工夫」が必要なのだと思う。
私が気になったのは、彼の会社の「社長はどう感じているのか」だ。
オーナー社長なのか本社から派遣された社長なのかでも異なる。
が、
私が社長だったら
「楽して儲けるやり方、意思決定がしやすいシンプルな方法」を考えたい。
「じゃあ、この先どうする!」
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戦略MQ会計・DC・マトリックス会計
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