だいぶ前になるが推理小説にはまった時期があった。
密室モノや犯人を推理する類のモノなど、
鮎川哲也氏、島田荘司氏がとくに好きだった。
難しい数式が出てこなければ「科学系の本」も好きである。
先日、武田邦彦さんの話を聴く機会があった。
「世の中の当たりまえはほんとうなのか」のような話は、
私にとって、とても興味深い内容だ。
彼は「科学者」である。
その武田さんが書いた「武器としての理系思考」の本に次のような一節がある。
・
『科学者でない人は、自分が信じていることと違うことを言われたときに、
カッとくることが多いでしょう。
ところが、科学者というのは自分が信じていることが「ない」のです。
科学における結論はデータによって変わってきますから、
対象に対しての個人的な信念とかそういうものはありません。』
さらに、
『1人ひとりが“ウソを見抜く力”を養う必要がある。』
と書かれていた。
・
これを読んだとき、「会計の世界はどうなのか?」と真っ先に思ってしまった。
目的や役割が異なる科学と会計を比べることはできないが、
会計情報を経営に活用するうえで“科学的な発想”は必要だ。
管理会計(CVP分析)の本に
次のようなことが書かれていたのを思い出した。
要約すると、
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・損益分岐点比率とは、実際の売上高に対して
損益分岐点売上高が何%の位置にあるのかを測定するための指標
・たとえば、損益分岐点比率が80%の会社の場合は、
売上高があと20%減少しても、
まだトントンでいられる、まだ赤字にはならない、ということを表している。
・この20%の指標のことを「経営安全率(安全余裕率)」という。
さらに、
『損益分岐点比率は低いほうが望ましく、
売上減少時の抵抗力が高くなり、安全性が増すことになる。
(中略)
損益分岐点比率の数字を変えながらシミュレーションできるのが、
損益分岐点分析を経営に活用する、ということである。』
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会計に携わっている人たちの多くは、
この文章を読んで疑問を持たないかもしれない。
が、
私が最初に思ったことは、
「これはオカシイ!」。
次の部分である。
・たとえば、損益分岐点比率が80%の会社の場合は、
売上高があと20%減少しても、
まだトントンでいられる、まだ赤字にはならない、ということを表している。
この説明には「欠陥」がある。
それは「売上高があと20%減少」という表現である。
100が80に減ればたしかに売上が20%減るが、その減り方が問題なのだ。
減り方によっては、けっして「トントン」にはならない。
トントンになるのは「ある条件の場合のみ」であり、
他の条件では、この説明は当てはまらない。
そして、次のように書かれている。
「損益分岐点分析を経営に活用する」とは、
「数字を変えながらシミュレーションできる」ことである。
ここで重要なのは「何の数字を変えるのか」なのだ。
・もし変動費率を5%下げることができたら・・・
・限界利益率をたった1%上げるだけで・・・
シミュレーションにはほど遠い。
未来をシミュレーションするためには“数学”が必要になってくる。
きちんとした計算根拠があってはじめて実践で応用できる。
どの本にも載っている有名な「損益分岐点図表」や「損益分岐点分析」では、
社長が望むシミュレーションはできない。
・
武田さんの本に「科学者の6原則」というのが載っていた。
1.科学は未来を予測しない
2.テレビに出ている専門家を信用しない
3.データが出るまで判断しない
4.違うデータが出たら考え直す
5.科学者は異論を認める
6.科学にウソは通用しない
これを読みながら考えてしまった。
「自分の6原則は?」
「社長の6原則は?」
「それぞれの職業の6原則は?」
そして「政治家の6原則は?」
・
「3期分の決算書を見ればその会社の実情がすべてわかる!」
と豪語する銀行出身のコンサルタント(中小企業診断士)に会ったことがある。
どういう経緯で依頼したのかを社長に聞いてみたところ、
取引銀行からの強いススメだった。
たまたまその日は、企業診断のために会社を訪れていたのだ。
なりゆきで一緒に食事をする「はめ」になり、
2時間にわたって「決算書の話」を聞かされることに。
後日、社長から診断結果を見せてもらった。
教科書に載っているような、
ありきたりな“模範解答”を予想していたのだが(当然それも書いてあったが)、
最後に書かれた提案らしきものを見て「唖然」とした。
おそらく、読者も容易には想像がつかないと思う。
まさに“驚き呆れてものが言えなくなる状態”である。
社長曰く、
「どうやらこの人は知識だけは詳しいが、
“現場の気持ち”がわかっていないようだ」
・
会計(決算書)の情報を経営に使うには、
会計(決算書)に偏らない“科学の視点”も必要のようだ。
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