第5章・社長のための戦略MQ会計
私が損益分岐点比率を学びはじめたときに悩んだことがあります。「この情報をどう活用すれば、経営に役立つのだろうか?」。
専門書を見ると次のような解説が載っています。
損益分岐点比率とは、実際の売上高に対して損益分岐点売上高が何%の位置にあるのかを測定するための指標です。
たとえば、損益分岐点比率が80%の会社の場合は、売上高があと20%減少してもまだトントンでいられる、まだ赤字にはならない、ということを表します。この20%の指標のことを 「経営安全率(安全余裕率)」といいます。
損益分岐点比率は低いほうが望ましく、売上減少時の抵抗力が高くなり、安全性が増すことになります。損益分岐点比率の数字を変えながらシミュレーションできるのが、損益分岐点分析を経営に活用する、ということです。
たしかに、「損益分岐点分析を経営に活用する」とは「損益分岐点比率の数字を変えながらシミュレーションできる」ことです。過去の損益分岐点売上を計算するだけではありません。
未来をシミュレーションするためには数学が必要です。きちんとした根拠があって、はじめて実践で使えます。
たとえば、損益分岐点比率が80%の会社の場合は、売上高があと20%減少してもまだトントンでいられる、まだ赤字にはならない、ということを表します。この20%の指標のことを「経営安全率(安全余裕率)」といいます。
この説明には欠陥があります。「売上高があと20%減少」という表現です。値引きによる売上の減少(販売単価引き下げ)なのか、返品による減少(販売数量の減少)なのか、あるいはこれら二つの組み合わせによるものなのか、同じ2割減少でも、その結果得られる利益はまったく違ってきます。
MQ会計表を使って検証してみます。違いは一目瞭然です。
経営安全率は、MQ会計における「g/m比率(MQに占めるGの割合)」です。現状は20%。「売上高があと2割減少してもまだトントンでいられる」という状況を、MQ会計で再現したのがこちらです。どちらもPQは2割減の240。ところが、値引きした状態[Pダウン]では赤字になってしまいます。
CVP分析では[Pダウン(値引き)]を想定していません。一部の書籍では「変動費は生産量や販売量、操業度に比例する」と解説しているにもかかわらず、結果は「売上高比例」です。2割の値引きを想定したシミュレーションでは、変動費も減少するのです。
“経営安全率(g/m比率)”は、販売数量Qが変化した場合にのみ成立する比率です。この矛盾(欠陥)は、「変動費の曖昧な定義」からはじまっているのです。
CVP分析(管理会計)とMQ会計には決定的な違いがあります。「シミュレーションに対する考え方」です。損益分岐点分析は企業の数字を扱います。「数学」です。数学には定義があります。きちんとした定義が存在するからこそ、定理が生まれ、物理学や科学、宇宙工学にまで発展するのです。
数学の先生が書いているブログに興味深いことが載っていました。
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定義とは、言葉の意味を決めることです。「2で割りきることのできる自然数を偶数という」、これは定義です。つまり「偶数」という言葉の意味を決めているのです。言葉の意味を宣言する、これが定義です。
数学では、定義がしっかりと決められています。定義は数学においてとても重要です。もし定義を知らなければ、定理の証明なんて絶対にできません。「定理」とは定義から導かれる事実です。定理の証明には当然、定義を使います。定義が与えられなければ、証明のしようがありません。
[定義]使うことばの意味をはっきり述べたもの
[定理]証明されたことがらのうち、基本になるもの
具体例:二等辺三角形
[定義]2つの辺が等しい三角形を二等辺三角形という
[定理]二等辺三角形の2つの底角は等しい
二等辺三角形の頂角の二等分線は、底辺を垂直に2等分する2つの角が等しい三角形は、二等辺三角形である
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「もし変動費率を5%下げることができたら・・・」
「限界利益率をたった1%上げるだけで・・・」
シミュレーションにはほど遠いようです。
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