第5章・社長のための戦略MQ会計
CVP分析における損益分岐点売上高を求める計算式です。
損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費÷売上高)
損益分岐点売上高を求める計算式の右辺にある「変動費÷売上高」は「変動費率」です。1から変動費率を引くと限界利益率になります。
損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
両辺に限界利益率をかけたのが次の式です。
損益分岐点売上高×限界利益率=固定費
左辺の「損益分岐点売上高×限界利益率」は、利益が0のときの「限界利益」です。これでだいぶシンプルになりました。
限界利益=固定費
MQ会計における損益分岐点は次の式で表します。
MQ=F
この式にはPQもVQも存在しません。損益分岐点とは、本来売上高とは関係ないところで決まります。限界利益=固定費と似ていますが、決定的な違いがあります。それは数学かどうかです。
MQ=F を因数(※1 に分解したのが次の式です。
M×Q=F
M=P-VなのでMに代入すると(P-V)×Q=F
ここで「限界利益=固定費」を因数分解してみます。(※2 すると「売上高×限界利益率=固定費」、最終的に「売上高=固定費÷限界利益率」に戻ってしまいます。
MQ会計がもっている数学の要素(因数分解と展開(※3 )は、現場で応用する際の重要なポイントの1つです。
※1)因数:積の形で表すことができるとき、かけ合わされている1つ1つを
因数といいます。6 = 2×3と表すとき、2と3が6の因数です。(この例は素因数分解)
PとQはPQの因数です。(PQ=P×Q)
※2)管理会計では売上高、変動費、限界利益は因数分解できません。
かけ合わせている因数がないからです。
そこで限界利益率を使って無理に分解しています。
※3)展開:積の式を和や差の式に変形すること。展開は因数分解と逆の計算です。
MQ会計表を使って検証してみます。
MQ=Fの状態が損益分岐点です。このときのMQは300です。
因数分解した(P-V)×Q=Fの式からPをいくらまで値引きできるかを求めます。
PQ-VQ=F
両辺にVQを足してPQ=VQ+F
両辺をQで割ったのが次の式です。
P=(VQ+F)÷Q
実際に数字を当てはめてみると、
P=(V60×Q10+F300)÷Q10=90 (※4
Pが90円、つまり10円値引きしてもGは0です。
※4)P=(VQ600+F300)÷Q10=90でも結果は一緒ですが、
MQ会計では答えに至るまでの過程が重要です。
因数に分解して考える習慣は、応用力を育てます。
MQ会計が5つの要素からできている理由です。
次に、因数分解した(P-V)×Q=Fの式からQをいくらまで減らせるかを求めてみます。両辺を(P-V)で割ったのが次の式です。
Q=F÷(P-V)
実際に数字を当てはめてみると、
Q=F300÷(P100-V60)=7.5
Qが7.5個、つまり2.5個減少してもGは0です。Qが3個減ったら赤字です。
この結果から気づくことがあります。それは、「利益がちょうど0になるような売上高など、めったに存在しない」ということです。
損益分岐点図表では売上高と総費用(変動費+固定費)の各線が交わる点を“損益分岐点売上高”と称していますが、実際は“その前後あたりに存在する売上”、つまり“損益分岐売上”という表現が適切だと感じています。
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