第5章・社長のための戦略MQ会計

3 売上とは[販売単価×販売数量]

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◆売上アップで利益が増えるとはかぎらない

 営業の現場を覗いてみると、当期や当月の売上目標を掲げ、営業マンごとに売上のグラフが貼ってある場面を見かけます。では、売上が増えるとほんとうに利益が増えるのでしょうか。

 次の問題を考えてみます。

 

 

(問題1)

 営業マンのA君は、毎月得意先Xに商品Zを@10,000円で100個販売している。商品Zの仕入原価は@6,000円。

ある日、得意先の担当者から「@8,000円にすれば倍の200個買うよ」と言われた。

 現在の売上は毎月100万円(@10,000円×100個)。今回の案件を引き受けた場合の売上を計算すると@8,000円×200個で160万円になる。「売上が1.6倍になる」と考えたA君は、喜んで引き受けることにした。(販売数量の増加に伴って増加する費用は仕入原価以外にはないものする)

 A君のこの判断(意思決定)は正しかったのだろうか?

 

(問題2)

 仕入れている商品Zが10%値上がりした。そこでA君は得意先Xにも10%値上げ交渉をしたが、得意先の担当者から「1割も値上げするなら70個にしよう」と言われた。A君なりに計算した結果、70個の案件を引き受けることにした。

 さて、A君のこの判断(意思決定)は正しかったのだろうか?

 

 (問題1)から検証してみます。この状況を整理すると次のような結果になります。

 A君が判断したように、たしかに「売上は1.6倍」になります。この会社の社長が「売上至上主義」だった場合、「A君よくやった!」ということで社長賞が出るかもしれません。

社長が「粗利率重視の経営」だった場合、粗利率は現状の40%に対して値引き後は25%になってしまいます。A君は「粗利率を上げろ!」という会社の方針に従って、この案件は引き受けなかったかもしれません。

 MQ(粗利総額)はどちらも同じです。ところが値引き後のVQが60万円から倍の120万円になっています。この問題からは取引条件(得意先からの回収条件と仕入先への支払条件)はわかりませんが、回収してから支払う場合と、先に支払ってから回収する場合に、資金繰りにどう影響するかも考慮しなければなりません。

 

 (問題2)を整理すると次のような結果になります。

 B案はA案に対してPは1.1倍、Mは約1.3倍、Qは3割減、m率は34%から40%に上がっています。これらの限られた情報をもとに、読者のみなさんはどのように意思決定するでしょうか。

 経営していくなかでは、答えのない解決すべき問題が数多く存在します。これらに対応するためには手法(問題の解き方)ではなく、状況や情報を整理し、考えて応用するスキルが必要です。

・売上が増えれば利益は増える

・粗利率を上げれば利益は増える

・原価率を下げれば利益は増える

という感覚、思い込み、勘違いが、会社の利益を結果的に減らす場合があるという事例です。

 

◆売上とは販売単価×販売数量

 「売上=販売単価×販売数量」という計算式は、営業マンは知っています。納品書や請求書に売上金額の根拠として載っているからです。

 「販売数量」と「販売単価」は異なる性質をもっています。販売単価Pは見積りの際に決まります。そして販売単価Pが決まった時点で「1個当たりの単価構造(粗利単価M)」が決まります(M=P-V)。販売数量Qが決まると粗利単価Mが「粗利総額MQ」に変換されます。「MQの大きさ(粗利総額)」は、その企業の付加価値、稼ぎ高です。

 「MQ最大化を考える」ということは、「MQの大きさ(粗利総額)」で判断するということです。PでもMでもありません。PQでもm率でもありません。

 

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