第5章・社長のための戦略MQ会計
会計の世界では「DC直接原価」と「FC全部原価」が対比議論されがちですが、正しいか正しくないか、良いか悪いかということではなく実用として考えた場合に、製造や工事にかかる労務費や経費などの期間費用を原価に含めないほうが、先々の経営を考えるうえでわかりやすく、意思決定できると考えます。したがって、MQ会計では間接費用配賦後のデータや情報は経営の意思決定には使いません。
一般に、伝統的な原価計算を経営に取り入れるには専門知識を必要とし、導入するまでに時間がかかります。場合によっては専門家を介さないと活用できません。ところが、MQ会計では会計の専門的な知識がかえって邪魔になります。
MQ会計は、社長自身がマスターし社長自身が経営に活用することが目的です。会計の専門家に相談することもなく、意思決定が容易に行えます。現場で働く社員にとっても同様です。
MQ会計は、現場で使ってはじめて価値があります。MQ会計はシンプル!これが最大の魅力です。MQ会計では製品や工事ごとに計算するのはMおよびMQまで。そしてこれらMQの合計が全体のFを超えるかどうかです。
MQ会計を導入し実践していくうえで3つのポイントがあります。
(1)科学的:科学的でなければ儲からない。
(2)戦略的:戦略的な意思決定に使いたい。
(3)誰でもわかる(中学1年程度)
どんなに良い理論でも難しかったら役に立たない。企業の組織全員が理解して動かないと利益アップはできない。
MQ会計を開発考案した西順一郎氏の著書に出てくる一節です。
(1)MQ会計は科学的
第1のポイントは「科学的であること」です。「数学的要素がどれくらい含まれているか」で科学性が決まります。「数学的で矛盾がないこと」です。今の制度会計や税務会計は科学的とはいえません。「売上を増やせば何とかなる!」、「まずは経費削減を!」、「とにかくがんばれ!」という精神論や根性論に近いのです。
科学的とは、会計に数学を取り入れることです。科学的・数学的な「DC直接原価」に変えれば、「期末や月末の製品や仕掛品在庫が多ければ多いほど(作れば作るほど)利益が出る」といった「FC全部原価」による矛盾や弊害がなくなります。「利益が出ているのに、なぜ資金繰りがたいへんなんだ?」という疑問もなくなります。
(2)MQ会計は戦略的
第2のポイント、それは「戦略的であること」です。経営において「戦略的な意思決定に使える」ということです。経営に必要なのは「将来に向けて、いまどのような手を打つべきか」といった意思決定に使える情報です。
「戦略」ということばは、もともと戦争技術から「戦術」と併せて生まれた概念で軍事用語でした。ところが今は「戦略的に」のように形容詞として使われることが多くなり、その定義は曖昧になっています。
MQ会計における「戦略」とは、「二者択一」、「やるかやらないか」です。「来期の利益は1億円だ!」これが戦略です。「3年間で全国展開100店舗目指すぞ!」これも戦略です。「この店舗は赤字だから閉鎖する!」、「この製品は生産中止!」、もちろん戦略です。戦略を決められるのは社長しかいません。社長が向かおうとする方向に、幹部や社員はベクトルを合わせなければなりません。その意思決定に使えるのがMQ会計です。
(3)MQ会計はカンタン、誰でもわかる
第3のポイントは「誰でもわかるくらいにカンタンであること」です。たとえどんなにすばらしい理論であっても、難しかったら役に立ちません。利益を生み出すのは現場の人たちです。企業の全員が理解して動かないと利益アップはできません。誰にでもわかる、具体的には「中学1年程度の数学」を使います。カンタンで科学的でなおかつ戦略に使える、MQ会計を経営の現場で実践するための三原則です。
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