第1章・決算書の正体
私が会計事務所に勤めていたころにこの問題を思いつき、企業の営業や製造現場、そして経理で質問してみました。会計に詳しくない営業や製造の反応は予想どおり、「2.追加しないでこのまま報告する」です。10人中10人がこの答えです。とても素直な考えだと思います。「期末の在庫が少なければ、期中でたくさん売れて利益が出ているはずだ」と考えるほうが自然です。ところが会計の世界では「答えはまったく逆」。
「売上原価」は「会計用語」です。文字通り「売るためにかかった原価、売上に対応する原価」です。先ほど解説した売上原価を求める計算式です。
売上原価=期首在庫+当期仕入(当期製造)-期末在庫
売上原価のおさらいです。
1.期首に商品在庫が10個ありました。
2.期中で50個仕入れました。
3.合計すると60個になります。
4.会計では売れた個数がわかりません。
5.残った在庫を調べたら12個ありました。
6.期首在庫10個+当期仕入50個-期末在庫12個=売上原価48個
たぶん48個売れているはず。
コンビニの定員Aさんは、倉庫の片隅にあった在庫を足すか、そのままにするか、迷ったわけです。かりに倉庫の片隅に3個あったとします。この3個を加えると売上原価の個数は減ります。
期首在庫10個+当期仕入50個-期末在庫15個=売上原価45個
売上原価は費用(経費)です。3個分の経費が減ればその分利益が増えます。Aさんは、「1.この500個を追加して報告する」と会社の利益が増えて臨時ボーナス!となるわけです。
会計に従事している人たちは「そんなは当然だ!」と答えます。ところが、会計を知らない人からすればチンプンカンプン。会計の世界にどっぷりつかっていると会計思考から抜けられなくなってしまいます。庶民のこの感覚がわからなくなります。
「原価を減らすには原価率を下げる!安く仕入れる!!」
というような安易な発想しか浮かばなくなります。
会計の世界を離れたいま、客観的に会計を見てみるとこのようなおかしなことがほかにもたくさん目につきます。棚卸資産回転率、売上債権回転期間、自己資本比率、労働分配率、付加価値の定義、変動費や固定費も同じように感じてしまいます。社長と税理士の会話が噛み合わなくなる理由のひとつです。
棚卸は「数量を数えるのが先」です。そして最後に金額に換算するために「単価」を求めます。
同じ原材料でも高いときもあれば安く買えるときもある。高い単価と安い単価のどちらを使えばいいのか。評価の方法がたくさんある。原価法に低価法。個別法、先入先出法、売価還元法、総平均法、移動平均法、加重平均法。そして最終仕入原価法は、期末に一番近い時点の仕入単価を棚卸評価の単価にするというものです。
たとえば、「小麦粉のキロ単価が期中で値上がりし、期末に大幅に値下がりする。」その逆もあるわけです。だからほんとうの原価などだれにもわかりません。でもOKです。きちんとした会計のルールなので「正しい」のです。
会計が苦手な社長は、決算書をながめて疑問をもってほしい!そして経理や税理士に質問してほしいと思います。少しずつ興味が出てきたらしめたもの。
貸借対照表(B/S)を上から順にながめるだけです。もし製造業の社長だったら、自社製品や仕掛品の金額はどうやって評価しているのか、損益計算書(P/L)の構造をじっくりながめてみるのもいいでしょう。消耗品の中には何が入っているのか、疑問が出てきてようやく次のステップに進めます。
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