税務会計はその名のとおり、税務申告のための、税金を計算するための会計です。法人が作る決算書は、会社法や公正妥当な企業会計の慣行により作成され株主総会の承認等を経て確定します。この“確定した決算書”における当期純利益を基礎とし、これに法人税に関する法令の「別段の定め」による一定の調整を加えて法人税を算出します。
法人税法第22条では、課税所得を次のように定義しています。
(各事業年度の所得の金額の計算)
第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
決算書に表示された「当期純利益」は、法人税の対象となる「課税所得」の金額とは一致しません。整理すると次のようになります。
・会計上の利益=収益-費用
・法人税の課税所得=益金-損金
・会計上の収益と法人税法の益金は一致しない
・会計上の費用と法人税法の損金は一致しない
・そのために、「別段の定め」による調整が必要
問題は「別段の定め」です。
会計の規則で計算された利益は、そのまま課税の対象となる所得金額には使えません。そこで税理士は考えます。「決算書に表示される利益をできるだけ課税所得に近づけよう。そのほうが社長にも説明しやすい」。
税理士事務所は「決算書および税務申告書製造業」です。一般の製造業と同じように、生産効率を考えるのは当然です。税務申告の際の「別段の定めによる調整作業」は、少ないに越したことはありません。企業が日々行っている会計処理は、知らず知らずのうちに税務会計になってしまっています。これが「税務署仕様の決算書」です。
税務署仕様で作られた決算書は、どのように経営に使えばいいのでしょうか。“経営に役立つ”とは、どういうことなのでしょうか?
多くの税理士たちは勘違いをしています。「税務署仕様の決算書が重要な経営情報である」と。そして“税務署仕様”の決算書をもとにわかりやすい資料やグラフに加工し解説を試みます。
“決算書ができ上がるまでの過程の情報”のほうが、じつは社長たちにとって重要なのですが、税理士たちは、でき上がった決算書のほうに焦点を当ててしまっているのです。その先どんな分析をしようが核心から遠ざかるばかり。決算書は、会計情報のほんの一部にすぎません。
これまで出版されてきた決算書本の多くは、「決算書とは何かを学び分析する」という観点で書かれているため、「会計情報を“カネ儲け”に使う」という発想には結びつきません。
原因は、書いている人たちが会計人(税理士・公認会計士)だからです。会計人という肩書が邪魔をし、会計(カネ勘定)の枠から出られず、いずれも似通った内容です。
多くの社長たちにとって“決算書の解読”は永遠のテーマです。複式簿記がイタリアで体系的に確立されてから500年以上も経つというのに。