2 分析について考える(社長とっての分析力)

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◆そもそも分析とは何か?

 会社内には売上に関する資料や生産管理の帳表、経理が作成する経営資料やグラフなど多くの情報が存在します。営業会議では、部門ごとや個人ごとに作成した会議資料をもとに結果の状況や計画に対する実績の報告がはじまります。

 私が会議に参加して思うのは、「資料やグラフが多すぎてよくわからない」です。説明を聞いていても、「この先、何をどうしたいのか」が伝わってきません。

 なぜなのでしょうか。発表者は前月や過去のデータを集め、参加者がわかりやすいような表にまとめ、解説し報告しているのです。分析をしているわけではありません。せっかくの会議が、“反省会”や“言い訳大会”になってしまっては、時間の無駄です。

 そもそも分析とは何をすることなのでしょうか。辞書には次のように載っています。

複雑な事柄をそれぞれの要素や成分に分けその構成などを明らかにすること

哲学で、複雑な現象・概念などを、構成している要素に分けて解明すること

物質の組成を調べ、その成分の種類や量の割合を明らかにすること

 営業や工場の責任者に「現状での問題点は何ですか?」と聞くと彼らの多くは思い込みで話します。思い込みとは、「目の前で起こっていることが重要な問題だ」と思ってしまうことです。

 「売上が伸びないのはなぜ?」「どうして納期が遅れるの?」、このような質問をするとそれなりの理由を話しはじめます。しかしほとんどの場合、いま起こっている現象を述べているにすぎません。

 分析をする行為とは「考えるプロセスそのもの」です。分析手法を学ぶことでもなければ分析ツールを使いこなすことでもありません。集めた情報やデータから「結果、なぜこうなったの?」と疑問をもち、「その疑問を解いていく過程で考える行為そのもの」です。

 自己資本比率が低いのも総資本回転率が悪いのも、過去からの問題が表面化したにすぎません。自分の会社を分析するということは自分の会社を徹底的に考えることです。

 グラフや資料などから関係性を探りだし、「どうしてそうなるのか?」を考え続け、その先の原因を追究する。「なぜ?」「だからどうなの?」の繰り返しです。

 考えることに慣れていない人、訓練していない人はそう簡単には分析はできません。分析をマスターすることは「考える方法を学ぶこと」でもあるのです。

 

◆問題の本質に迫るために

 決算書から機械的に作る経営分析表のように、多くの人がやっているのはじつは分析ではなく、数値を並べて表やグラフを作成する作業にほかなりません。問題の本質に迫るためには「価値のあるデータ」が必要です。データがなければ分析のしようがありません。

 ところが多くの企業では、昔に誰かが決めた数値項目を、誰かが決めた表に当てはめ、毎月の経営会議などで発表や報告をするために、あるいは管理目的のために作成し、期間が過ぎれば廃棄してしまうのです。エクセルで作られた資料は紙と一緒です。真の分析はできません。

 価値のあるデータとは、「なぜこうなるの?」、「もしこのようにすればその先こうなるかもしれない!」など、いろんな疑問に対してどこまでも掘り下げ、追求できるデータです。

 では、どこまで掘り下げればいいのか。それは「新しいアイデアや解決策のヒントが出るまで」、「仮説を立てられるまで」です。そしてようやく次のステップに進むことができます。

※)「仮説を立てる」とは、ある現象を合理的に説明するため“仮の答え”を出すこと

 

◆分析は疑問からはじまる

 分析とは、いま起きている事象や結果の帳表に疑問をもち、解いていく過程において「当然だ」と思わずに、「こうなったのはどうしてなんだ?」と系統立てて考え、掘り下げていくことです。結果の数字を見て、「この数字はこういうことだ」と解説をはじめる人は、本質にはたどり着けません。

 思い込みや常識は、新しいアイデアの邪魔をします。わかったふりをしてはいけません。解説もしてはいけません。「もしかしたらこういうことかもしれない」という憶測を、仮説のレベルまで引き上げることです。「わかったつもり」が一番危険です。考えなければ気づきや発見は得られません。

 日ごろから見慣れている帳表やグラフでも、加工されていない生データを使って見る角度や切り口を変えてみると、新しい発見があります。集計した表(結果)ではなく、データでやってみることです。そうすると、「なに?」と思うような、もしかしたら予想(推測)とはあきらかに違った動きが見えてくることがあります。

 会議などで配られる資料やグラフを見てどう感じるかです。「ふーん、なるほど」と納得するのか、「なんで?」と思うか、仮説を立てて考えるための訓練のスタートです。

 

◆社長の顔が凍りついた

 これから紹介するのは、自社の“生のデータ”を使って社長と幹部社員が一緒に分析を学んでいく過程での出来事です。

 この会社は製造部門と本社営業部門があり、「企画提案」が強みです。以前からMQ会計を導入し、幹部も社員もMQ会計を学び現場で実践していました。見積り作成の段階からMQを把握しています。

 分析をはじめる前に現状を確認するため“3期比較MQ会計表”を準備してもらいました。参加者した幹部社員がこれを見てどう感じるか、箇条書きで書いてもらいます。

 PQはたしかに年々増加している。しかしMQは横ばい状態。VQが増えたのは原材料費の高騰と外注費の増加によるところが大きい。これがm率低下を招いた。MQは横ばいだがFが増加しているためGは3年前の半分に落ち込んだ。

 決算書を使った経営指標による分析の場合、総合的な分析内容を相手にどのように伝えるか(伝わるか)は、分析者の能力に委ねられます。が、多くの分析では残念ながら「じゃあ、この先どうすればいい!」という期待には応えてはくれません。

 ところが、ここには現場の担当者がいます。決算書を分析するのとは深みが違います。社長も知らないことが、彼らにはその理由がどこにあるのか、うすうす感じているのです。MQ会計を現場で実践する価値(意義)は、ここにあります。

 P/Lから作った“3期比較MQ会計表”からは肝心な部分が見えてきません。それは決算期で区切っているからです。そこで決算期を意識しない分析を行ってみることにしました。

 商品・得意先・担当者・部課に関する日々の情報が、過去5年分の販売データ(MQデータ)に蓄積されています。

 月ごとのMQ金額をグラフで見ていたときです。先月の数字を見ていた社長の顔が凍りつきました。他の幹部社員も同じです。このグラフが意味しているもの、「それはすでに手遅れ、もっと早く手を打たなければならなかった」のです。

 どうしてこのような状況になるまで誰も気がつかなかったのか。それは、月次で区切って分析していたからです。決算期で区切って見ていたからです。視点が会計に偏りすぎていたのが原因です。「決算分析からは核心に迫れない」ということを示しています。

 得意先分析ではこれが顕著に現れます。決算期ごとの比較ではPQは年々増加しています。ところが、PQとMQが大幅に減っている大口の得意先が数件見つかります。「なぜなのか」を指摘するまでもなく、理由は担当者が一番よくわかっているのです。

 受注物件の価格帯分析を行っていたときです。社長から要望が出ました。「うちは物件ごとのMQは把握している。だからMQではなくPQで見てみたい」。

この会社が得意としているのは“企画提案型の製品”、受注物件の価格帯がどうなっているかを見てみたいというのです。

 さらに社長は次のように言いました。「価格帯を5万円きざみで見られないか」と。

このあたりまでくると、参加者各自がいろんな方向からデータを見てみたいという感覚がわいてきます。「この先どうしてみたいですか」と質問したところ、「これを部課ごとに見たいですね」、という営業部長からの発言です。「じゃあやってみて」。

分析とは一方通行ではありません。会話の中から新しいアイデアが生まれるのです。

 いまこの会社に必要なのは計画です。得意とする“企画提案”の案件を獲得するための販売計画と具体的な行動です。現在の部課割は20年以上も前からそのままです。そこで提案したのが3つです。

①見積段階で先々のMQが読めるようにデータに項目を追加する

②計画を立てやすい分類の新設

③部課割(チーム)の再編成

 この先どういう方向に進むのかを部課ごとに話し合い、方向性を決め、計画を作り、いまは成果を確認しながらデータを使って(資料は作らずに)前向きの会議をしています。

 この先どうしていくのかは、現場を一番よく知っている社長や担当者が考えなければならない重要事項です。商品や製品のPやQをどうするかを含め、第三者(会計人やコンサルタント)は、安易にアドバイスはできません。

 ふだんから「疑問に思う」ことを意識し、その疑問に対して「どうしたいか」を思考する習慣が育ってくると分析力は自然に身につきます。

 問題解決のヒントは現場にあります。「MQ会計をとおして“思考力”と“発想力(アイデア力)”を身につけること」は、MQ会計の重要な目的の1つです。


 ここで紹介している事例(分析についての考え方)は、「戦略MQ会計【実践講座】」の講義の中で分析手法と併せてお伝えします。年に1~2回の特別講座です。興味のある方はぜひどうぞ。 

2025年2月23日(日)/ 24日(月)

兵庫県養父(やぶ)市・MQ会計【実践講座2日間】

セミナーの詳細は ⇒ https://www.mxpro.jp/yabumq2/

 

東京は2025年7月または8月開催を予定しています。

決まり次第、メルマガでお知らせします。

 


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