1 労働分配率は50%以下が望ましい

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◆労働分配率は50%以下が望ましい?

 今回、付加価値に関する文献などを読んでわかったこと、それは、「付加価値とは不可解である」ということです。解説する側の立場にいる会計人やコンサルタント、銀行マンたちは経営分析を専門的に勉強し、指標の意味を学び、計算式をマスターし、それら指標がどのような状況を表しているのかを、知識と経験と技術を駆使して決算書の解説や診断を行います。

 

「労働分配率が高いのが収益構造を圧迫している大きな要因です。

 一般的に労働分配率は50%以下が望ましいとされています。

 適正な人件費枠をふまえたうえで、これを吸収できるように付加価値の増加を図る

 経営努力および計画が必要です。」

 

 このような説明を受けた社長たちは、どう受け止めればいいのでしょうか。付加価値自体がこれほどあいまいで定義もさまざまなのです。

労働分配率が高いとはどういうことなのか?

なぜ50%以下が望ましいのか?

50%の根拠は何なのか?

高いことはほんとうに悪いことなのか?

低くするにはどうすればいいのか?

かりに低くなったら会社はどうなるのか?

 「科学的(数学的)な根拠がない」ということは、「この先、具体的にどうしたらいいのかわからない」ということです。この先どうするかわからないような説明を受けても、困るのは中小企業の社長たちなのです。

 

◆ある税理士のアドバイス

 何年か前、ある会社の社長から相談を受けました。社長が話しはじめました。税理士から決算のときに言われたというのです。「人件費がかかりすぎているのが赤字(資金繰り悪化)の最大の原因」だと。

 さっそく決算書を見せてもらいMQ会計表に変換してみました。業種は製造小売です。労働分配率は70%を超え80%近くまで達するような状況です。

 「それで、税理士はどうすれば良いと言っているのですか」と尋ねたところ、「ちょうど先日、会計事務所主催の資金繰りのセミナーがあったので参加してきました。資金繰りを良くするためには流動比率を改善することが当面の最優先課題だと言われました。」と言って、セミナーの資料をもってきました。読んでみると、ほんとうにそう書いてあったのです。

 労働分配率は、MQ会計ではF1(人件費)÷MQ×100で求めます。MQに占めるF1人件費の割合です。この数値は一般的には低いほうが良いとされています。税理士が指摘したように、たしかに労働分配率はかなり高めです。

 「社員数は何名ですか?」

 年間の給料総額を社員数で割ってみました。なんと、あまりにも低い数字だったのです。営業担当の給料だけを見ても一般の中小企業から比べてかなり少なめ、社長の役員報酬はそれよりもさらに少ないのです。とても生活できるような金額ではありません。税理士は給料の金額を見ずに比率だけを見てアドバイスしていたのです。

 「うちは他よりも給料が高いのが自慢だ!」という会社を目指している社長は利益計画に盛り込み、それできちんと利益を出しています。「社員に高い給料を払いたい」、それは社長の方針です。問題なのは、方針や計画がないまま労働分配率が高くなってしまうことです。

 

◆それで、社長は何をしたいの?

 「社長、労働分配率が高いわけではないのですよ。給料の金額を見ても低すぎるでしょう。人件費が多いのではなく、MQを稼ぎ出す仕組みができていないのです。で、社長はこの先どうしたいのですか。」

 社長は新製品を開発してこれから販売しようとしていました。ただし、販売は営業任せ、製造は社長の親戚が担当しています。

 「社長はどうして営業に行かないのですか。販路開拓は社員任せでなく、社長自身がお客を回って生の声を聞き、どうするのかを社長が自分で考えていかないと、これではいつか潰れますよ」。そして利益計画と販売計画の立て方を説明して帰りました。

 それから何か月か経ったとき、東京のMQ会計セミナーに社長が参加しました。

 「ウノさん、あのときいた営業はやめました。今は自分で販路開拓です。せっかく東京に来たので、セミナーのついでに新規開拓をしていきます。」

 いつの間にかすっかり社長らしくなっていました。いまは売上も順調に伸び、何よりも生き生きしているのが印象的でした。

 


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