1 労働分配率は50%以下が望ましい

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◆労働分配率って何?

 決算書の解説や経営分析でよく使われる用語が「労働分配率」。費用の中で多くを占める人件費は、企業の利益に大きく影響します。

 その労働分配率とはいったい何でしょうか。労働分配率は、次のような計算式で求めることができます。

 労働分配率(%)= 人件費÷付加価値×100

 労働分配率60%の企業では、100円の付加価値を稼ぐのに60円の人件費がかかったという意味で、付加価値に占める人件費の割合です。ここで疑問が生じます。「付加価値」ってなんでしょうか?

  付加価値とは、企業が事業活動の結果として作られる製品、サービスなどが提供される過程で生み出されたもの。控除方式と加算方式の2種類の計算方法がある。

 【中小企業庁方式(控除方式)】

 付加価値=売上高-外部購入価値(材料費、購入部品費、購入商品、運送費、

      外注加工費など)

【日銀方式(加算方式)】

 付加価値=経常利益+人件費+貸借料+減価償却費+金融費用+租税公課

  実務では、計算が容易なことから「加算方式」が多く使われている。 

 

◆労働分配率と付加価値

 中小企業庁方式では売上高から減算するのに対し、日銀方式ではなぜ加算するのか。私が経営分析を学びはじめた当時、付加価値を求めるこれらの計算式がまったく理解できませんでした。調べるとほかにも出てきます。

 【経産省方式】

 粗付加価値=実質金融費用+当期純利益+人件費+租税公課+減価償却費

【財務省方式】

 付加価値=役員報酬+従業員給料手当+福利費+動産・不動産賃借料+支払利息割引料

      +営業利益+租税公課

 いまは会計ソフトで経営分析表が簡単に作れます。そこにも労働分配率が出てきます。では、会計ソフトはどのようにして計算しているのでしょうか。OBC(オービックビジネスコンサルタント)社製の「勘定奉行」とTKCの計算方法を比べてみました。

 勘定奉行では、分子の“人件費”は勘定科目単位でユーザーが選択することができます。分母の“付加価値”は加算方式を採用し、人件費同様に加算する勘定科目は自由に選択きるようになっています。

 労働分配率(%)= 人件費÷付加価値×100

  一方、TKCは次の計算式を使っています。(2023年時点でのホームページより転載)

 労働分配率(%)= 人件費(当期労務費+販管人件費)の固定費分÷限界利益×100

 分母は、付加価値ではなく限界利益(限界利益=売上高-変動費)です。分子の人件費は“固定費分”となっています。

 依頼している税理士がTKCで、もし労働分配率の話が出たら一度質問してみてください。「変動費には何が含まれていますか?」と。変動費の中身によっては限界利益の金額は変わり、労働分配率の値も変わってしまいます。

 販売業では、期首と期末の在庫増減(変動費の増減)も考慮しなければなりませんし、製造業や建設業では製品、仕掛品、仕掛工事の期首と期末の金額から固定費を取り除いて変動費の増減を求めなければなりません。

このように、限界利益を求める計算式は複雑です。決算書から電卓で簡単に求めることはできないようです。

【中小企業庁方式(控除方式)】

 付加価値=売上高-外部購入価値(材料費、購入部品費、購入商品、運送費、

      外注加工費など)

 中小企業庁の控除方式では、期首と期末の在庫増減に関しての具体的な記述はありません。付加価値の定義は、さらに“あいまいさ”を増しています。決算書から付加価値を求めることは、容易にはできないのです。

 


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